有田焼の伝統技法を絵画に用いた陶彩画家・草場一壽が東京で個展を開催

みなさんは陶彩画(とうさいが)をご存じですか? 陶彩画とは有田焼の伝統的な上絵の技法を用いて描かれた絵画のことで、絵画でありながら高温で焼成された陶でもあるため、半永久的に色彩が劣化することのない唯一無二の芸術なのです。その第一人者である陶彩画家の草場一壽さんが、12月10日から日比谷OKUROJIで個展「草場一壽 陶彩画新作展 東京」を期間限定開催するということで足を運んできました。

草場一壽さん

一般的な陶板画は陶板の上に絵を転写したものですが、陶彩画はこれとはまったく異なります。転写するのではなく、白い陶板に釉薬で絵付けをしては焼成、また違う色の釉薬で絵付けをしては焼成を740℃から1280℃まで炉の温度を変えながら15段階も繰り返すことで絵が完成します。35年前から佐賀県・有田で研究を始め、陶彩画というジャンルを確立した草場さんは、まさに始祖ともいえる存在なのです。

陶彩画が出来るまでの制作工程イメージ

陶彩画の魅力は、前述したように“劣化しない”という側面もありますが、それ以上に釉薬を焼成することで起こる化学変化が生み出す“予測不能な色彩の美しさ”という点にあるのではないでしょうか。金属が混じった釉薬は、配合次第で焼成後の色合いが異なります。もともとは灰色だった釉薬は、火の力によって様々な色に変化するのです。草場さんは試行錯誤を繰り返す中で、ルビーやラピスなどキレイな色の宝石を粉状にして焼成したそうですが、逆にそれらは灰色になってしまったといいます。ひょっとしたら釉薬は、宝石を生み出すための魔法の粉なのかもしれませんね。
そして、“予測不能な色彩の美しさ”という意味は、人間の思い通りにならない炉にすべてを委ねなければならない、焼き上がるまでどんな色に変化するのかわからないことにあります。過去の経験から計算した配合の釉薬を準備しても、焼成温度をコントロールしても、完璧に炉の中を支配することはできません。結果として不本意な作品にも、想像を超えるような素晴らしい作品にもなることから、陶彩画は“火に託す”ことで奇跡が誕生する芸術といえるのではないでしょうか。
また、見る角度によって色が変わることも陶彩画の魅力のひとつです。試しに「龍華」という作品を見てみましょう。

「龍華」

中央の龍の顔を右斜め前から見ると灰色、左斜め前から見ると濃い金色になります。

右斜め前から

左斜め前から

「海王」という作品ではどうでしょうか。

「海王」

真正面から龍の顔を見ると黄緑が印象的な色合い、右斜め前から見ると黒っぽく見えます。草場さんは「黒龍に変わる」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思います。

真正面から

右斜め前から

今回の個展では、草場さんがおよそ30年もの間描き続けてきた龍をモチーフとした「はじまり」、草場一壽 神話シリーズ最後の大作「国常立命(金龍)またの名をニギハヤヒ」、そして先に大阪で開催された個展で話題となった「豊穣の女神 ラクシュミー」の3つの新作をはじめ、原画70点と複製画の約100点が展示されています。伝統的な有田焼の技法を用いて生み出された、唯一無二の芸術作品をぜひご自身の目でご覧ください。