海の波、山のかたちを一枚の布に。ミャンマーの手仕事が中目黒に集う6日間

「ミャンマーの布」というと、日本ではまだなじみが薄いかもしれません。ですが、その一枚を手に取れば、印象は大きく変わるはず。高度な織りの技術と、職人が一品一品手作業で仕上げる丁寧なものづくり。

繊細な模様と鮮やかな色彩を併せ持つミャンマーの手織り生地には、日本ではまだ広く知られていない魅力があります。 そんなミャンマー布を使ったアパレルショップが、9月10日(木)~15日(火)まで、中目黒駅すぐの場所に期間限定でオープンしています。
お洋服好きな方なら、一度は実物を手に取ってその質感と美しさを確かめてみてください。

個性豊かなアパレルブランドが集まるPOPUPストア

中目黒駅東口1を出て信号を渡り、右側のビル「中目黒アリーナ」の1階

色鮮やかな柄や、素朴で温かみのある風合い。一見すると海外の伝統布に見える生地には、一枚一枚その土地ならではの文化や歴史が刻まれています。
そんなミャンマーの手織り生地を使ったアパレルや雑貨を紹介するPOPUPストアが開催されています。

民族ごとに異なる、ミャンマーの手織り生地

服によって異なる模様が魅力のひとつ

ミャンマーでは、政府によって135の民族集団が公式に認められており、チン族、カチン族、モン族、シャン族、ラカイン族など、多様な民族が暮らしています。それぞれの地域で異なる文化が育まれてきたことから、織物にも地域ごとの個性が表れています。

ミャンマー国内で代表的な生地の特徴

「同じミャンマーの生地でも、民族や地域によって柄や織り方が全然違うんです。海側にある地域の模様は波模様だし、山岳地帯の柄は山頂のような紋様。それを見ていると本当にワクワクする。ぜひとも“生地沼”にハマってほしい」
そう話すのは、今回HARICOとともに服を出店している Naanの嶋田幸代さん。

男性でも着ることができる服も取りそろえる

代表的な柄には、迷路のような模様が特徴の「ウインガバ」や、波のような模様が連なる「セイ(ビルマ柄)」などがあります。男性が身につける伝統衣装「パソ」に使われる生地も、そのひとつ。

基本的には昔ながらの手織りで作られており、素材は綿100%。さらりとした肌触りと丈夫さも魅力です。

同じ形の服でも、生地の柄が変わるだけで印象は大きく変わります。だからこそ、一点物に近い感覚で選べるのもミャンマー生地ならではの楽しみといえます。

「ミャンマーの生地で服を作る」という新しい発想

日本での生活でも取り入れやすい服のデザイン(HARICOホームページより)

ミャンマーの伝統的な生地を使いながら、現代の日本の暮らしに合わせた服を提案しているのがHARICOです。

HARICOは、ミャンマーで会計士として働いていた伊勢さやかさんが、現地で出会った多様な手織り生地に魅了されたことをきっかけに2015年にスタート。当初はヤンゴンの市場に店舗を構え、オーダーメイドの仕立て屋として始まりました。

現在はヤンゴン市内のアトリエを拠点に、現地スタッフとともに服づくりを続けています。
特徴的なのが、ワイドパンツやイージーパンツなど、ゆったりとしたシルエットのアイテムです。伝統的な生地をそのまま紹介するだけではなく、ワンピースやスカートなど日本のファッションや生活に取り入れやすい形へ。暑く湿度の高い日本の夏にも適した、風通しのよいシルエットも魅力です。

HARICO公式サイト:https://harico.handcrafted.jp/

ミャンマー×日本。異なる土地の生地を組み合わせて

ミャンマーの伝統衣装ロンジーは体のラインに沿った作りだが、こちらの衣裳はよりゆったりしている

今回のPOPUPでは、HARICOとコラボレーションするブランドも登場します。
「ミャンマーの人には、自分たちの布で外国人向けのパンツなど、洋服を作るという概念がないんです。こんなに素晴らしい布生地があるのに、ミャンマーを訪れた旅行者は、中国製の薄いプリント生地を使った服を買うしかない。それはとてももったいないと感じていました」

そう話すのは、Naanの嶋田さん。ミャンマーに古くから伝わる手織り生地の魅力を、もっといろいろな人に知ってほしいという思いから、自らデザインした洋服をHARICOに依頼して仕立てています。

伝統的な生地の繊細な柄や風合いを生かしながら、現代の暮らしに取り入れやすいデザインへ。HARICOと協力して商品開発を続けることで、ミャンマーが誇る手織り生地の魅力を、ファッションを通して海外へ届けています。

ミャンマー生地以外にもアフリカなどの生地も取り入れる

使用するのはミャンマーの手織り生地だけではありません。ガーナ、トーゴ、マリなどのアフリカから仕入れたプリント生地も取り入れ、異なる地域の布を組み合わせたアイテムも展開しています。

会津木綿と組み合わせることで、日本の素材との意外な親和性も感じられる

日本とミャンマー。異なる土地で生まれた生地を一つの服に仕立てることで、それぞれの素材が持つ風合いを楽しめるアイテムに仕上げているのが魅力です。

電気がなくても、ものづくりは止まらない

昔の日本には日常的にあった足踏みミシンが今も使われている(HARICO提供)

ミャンマーでは2021年のクーデター以降、政情不安が続き、現在も停電が頻発する地域があります。そうした環境の中でも、HARICOのものづくりを支えているのが、足踏みミシンと手織りという昔ながらの技術です。

電力への依存が少ないこうした道具や技術を生かしながら、不安定な環境の中でもものづくりが続けられています。

「例え電気がつかなくても、クリエイティブは止められない」HARICOスタッフのティンギ―さんはそう話します。

HARICOアトリエで働く職人(HARICO提供)

服づくりを続けること。それは即ち、クーデター以降内戦が続き不安定な生活を強いられる現地の人たちの雇用を守ることにもつながっています。HARICOでは現在、専属スタッフ6人を中心に、現地での雇用を生み出しながら商品を制作。完成した商品は日本へ輸入されています。
さらに、服を作る際の裁断で出る端切れも捨てず、雑貨などに再利用しています。

ミャンマー生地を普段使いにできる

「この柄、どこから来たんだろう?」から始まる楽しみ

ミャンマー文化を楽しめる店内の様子

今回のPOPUPは、同じ会場では今年3回目の開催となります。これまでの開催では鮮やかな色の商品が人気を集めましたが、今回は秋冬を意識し、落ち着いた色合いのアイテムも多く並びます。

一点物が多いため、「気に入った柄を見つけたら、それが出会い」というのも、このPOPUPの楽しみ方のひとつです。普段の服を選ぶときとは少し違う視点で、生地の柄や織りの細かさに目を向けてみる。そこから「これはどこの民族の布なんだろう」「どんな人が織ったんだろう」と、ミャンマーという国や、そこに暮らす人々へ興味が広がっていくきっかけになるかもしれません。

そして今回のPOPUPでは、服を入り口に、ミャンマーの文化や暮らしをより身近に感じられるアイテムも並びます。

新作の水出しコーヒーも試飲できる

そのひとつが、ミャンマー・シャン州のカローで生産されるコーヒーを届ける「Cafe Kalaw(カフェカロー)」。現地で育ったコーヒーを味わいながら、ミャンマーの風土にも触れることができます。

いくみさんの描くかわいいミャンマー衣裳も見ものだ

さらに、“旅するイラストレーター”いくみさんによるポストカードやキーホルダーも販売。ミャンマーに暮らした経験を持ついくみさんが、現地のさまざまな民族や日常を描いたイラストを通して、服や生地だけでは見えてこないミャンマーの多様な文化を楽しむことができます。

手織り生地、コーヒー、そしてイラスト。ひとつの会場を巡りながら、さまざまな角度からミャンマーという国に触れられるのも、今回のPOPUPならではの楽しみです。

一枚の布から、遠いミャンマーをもっと身近に

ミャンマーの各地で受け継がれてきた手織り生地。それを現代のファッションへと仕立て、日本の暮らしにつないでいるHARICOやNaan、nagomiの服には、色や柄の美しさだけではなく、その土地の文化や作り手たちの物語も込められています。

会場で気になる一枚を手に取ってみれば、織りや模様の違いに気づき、「この柄はどこから来たんだろう」と知りたくなるかもしれません。遠い国の文化との出会いが、一枚の布から始まる。そんな楽しみ方ができるのも、今回のPOPUPの魅力です。

「ミャンマーの手仕事とイラスト POPUP in Nakameguro」は、2026年9月15日(火)まで開催されています。服だけでなく、コーヒーやイラストにも触れながら、中目黒でミャンマーの色や手仕事、その向こうにある文化を感じてみてはいかがでしょうか。

<取材・写真・文/霧島カヴ>