持続可能な社会をつくるための取り組みは、地域の中で静かに、しかし確実に広がっています。全国には、環境保全や資源の循環、子どもたちの学び、自然との共生といったテーマに真剣に向き合い、長い時間をかけて活動を続けている人たちがいます。今回発表された「持続可能な社会づくり活動表彰」では、そうした努力が光る五つの取り組みが選ばれました。
受賞団体や学校に共通しているのは、活動が単なるイベントやプロジェクトに留まらないことです。地域に根付き、世代を超えて参加でき、そこに暮らす人たちの価値観や行動にまで変化をもたらしている点が印象的です。たとえば、規格外野菜の活用から生まれた交流の場、放棄されつつある棚田を未来へつなぐ挑戦、中高生が自ら動いて環境への理解を広げる取り組みなど、どれも地域の風景を少しずつ確かに変えています。
企業による自然再生や資源循環の実践も、単なるCSRにとどまらず、地元の人々との協力関係を育てながら長期的に続けられてきたものです。こうした活動を知ると、持続可能性という言葉が、より身近な生活や地域の未来とつながってくるように感じます。
本記事では、受賞した五つの取り組みがどのように生まれ、どんな人たちによって支えられてきたのかを紹介します。それぞれの活動が地域に与えている変化から、持続可能な社会のヒントを探っていきます。
多様な活動が選ばれた「持続可能な社会づくり活動表彰」とは

持続可能な社会を目指すためには、環境保全や資源の循環、地域の魅力づくり、教育の機会づくりなど、さまざまな立場の取り組みが支え合うことが欠かせません。「持続可能な社会づくり活動表彰」は、そんな地域や学校、企業、NPOが地道に続けてきた活動を評価し、その価値を広く伝えるために実施されているものです。
今年度は、地域の暮らしに寄り添う長年の努力から、若い世代が中心となって広げてきた学びの場、企業による自然再生の実践まで、多様なアプローチが選ばれました。いずれの取り組みも、単独では完結しない社会課題に向き合い、「地域とともに継続してきたこと」が大きな特徴です。
審査は、大学教授やNPOの代表、環境分野の専門家などによって構成された委員会により進められています。専門的な視点を持つ委員が参加することで、活動そのものの実績や継続性、地域社会への広がりなど、多角的な観点から評価が行われました。
表彰式は東京都内で開催され、受賞者には関係者から直接賞状が授与されました。活動の節目を共有する場となり、それぞれの取り組みが地域の未来につながることを改めて感じさせる時間となったように思います。
地域と未来をつなぐ5つの実践
持続可能な社会づくりに向けた取り組みは、地域ごとに異なる課題に寄り添いながら続けられています。今年度選ばれた五つの活動は、どれも“その地域だからこそできた”独自の工夫と、長い時間をかけて築いてきた関係性が特徴的です。ここでは、受賞した取り組みを一つずつ紹介します。
【1. 環境大臣賞】

NPO法人 真庭あぐりガーデンプロジェクト(岡山県真庭市)
規格外野菜を地域のつながりに生かす取り組みとして始まった「お節介野菜プロジェクト」。市場に出ない野菜を活用し、カット野菜や調理キットに加工して販売する仕組みをつくっています。地域の高齢者が通いの場で「働く」体験として参加できるほか、子育て世代や若者、障がいのある方も関わり、多世代が集う交流の場になっています。食品ロス削減や循環型農業の実践とあわせて、環境・農業・福祉が結びつく地域モデルとして広がりを見せています。
【2. 地域づくり活動賞】

NPO法人 棚田LOVERS(兵庫県神崎郡市川町)
約20年にわたり、棚田を次世代へ受け継ぐことを目指して活動してきた団体です。親子でお米を育てる体験、棚田の生き物観察、収穫料理体験、子育てフェスなど、自然の中で命や食の大切さを学べる場をつくっています。担い手不足で放棄されつつある棚田の再生にも力を入れ、これまで累計23枚以上の棚田を維持・再生。地域への移住者も生まれるなど、棚田が地域の新たなつながりを育む存在になっています。
【3. ESD活動賞】

学校法人 新渡戸文化学園 新渡戸文化中学校・高等学校(東京都中野区)
中高生が主体となって進める環境学習の一環として、森林を守るための国際認証「FSC®認証マーク」の普及活動に取り組んでいます。生徒たちが企画するSDGsプロジェクトとして、企業や団体と協力しながら、認証紙を使った日本製おりがみを開発。イベントでのワークショップを通して、消費者が認証製品を選ぶことが森林保全につながることを伝えています。学びを社会に還元する活動として、多くの場で注目されています。
【4. 資源循環活動賞】

アースサポート株式会社(島根県松江市)
廃棄物処理を行う企業として、資源を循環させる取り組みを長年続けています。プラスチックのリサイクルをはじめ、太陽光パネルの再生事業や再生可能エネルギーの導入によりCO₂削減を推進。さらに、25年以上にわたり環境教育にも取り組み、学校や企業との連携を深めてきました。地域清掃活動や障がい者雇用など、地域課題に寄り添う幅広い取り組みも行われています。
【5. 生物多様性保全活動賞】

大同特殊鋼株式会社(愛知県名古屋市)※活動地:北海道枝幸郡浜頓別町
クッチャロ湖の自然再生を目指し、1991年から地元の森林組合と協力して植樹活動を続けてきた企業です。山火事で失われた森にアカエゾマツを植え、後には広葉樹の育成も開始。生態系調査の結果、動物の確認種数が増えるなど、長年の努力が自然環境の改善につながっています。さらに、地域での環境教育や研修を行うなど、自然再生と地域活性化を両立する取り組みが特徴です。
五つの取り組みを見ていると、対象も方法も違うにもかかわらず、どれも地域に根付き、人や自然とのつながりを大切にしてきた共通点があります。こうした積み重ねが、持続可能な社会へ向けた道筋を形づくっていることが伝わってきます。
地域の力が未来を支えるという共通点
五つの活動を見比べると、対象としている分野は環境、農業、福祉、教育、自然再生と実に幅広いのですが、どの取り組みにも「地域の中で続けていく仕組みがある」という点が共通しています。特別な施設や大きな投資に頼るのではなく、人と人のつながりや日々の行動を大切にしながら、長い時間をかけて成果を積み重ねてきたことが印象的です。
また、活動を支えている人の顔が見えることも特徴のひとつです。子どもたち、学生、農家、高齢者、企業の従業員、NPOのスタッフなど、立場の異なる人たちが参加し、地域の課題を自分ごととして考えながら関わっています。関わる人が増えるほど活動に広がりが生まれ、その結果として地域全体の意識が変わっていくようにも感じられます。
持続可能な社会づくりは、決して大きな組織だけが担うものではありません。今回選ばれたように、学校や企業、NPO、地域住民がそれぞれの立場から一歩を踏み出すことで、未来につながる変化が生まれていきます。五つの取り組みは、そのことを改めて示しているように思います。
地域を支える小さな取り組みから未来はつくられる
持続可能な社会づくりという言葉は大きく聞こえますが、今回紹介した五つの取り組みを見ると、未来を変えていく力は地域の中にあることを実感します。身近な場所で続けられてきた活動が、人と自然をつなぎ、世代を越えた学びを生み、新しい循環をつくり出しています。どの活動も、地域の課題を前向きに受け止め、関わる人が少しずつ力を寄せ合うことから形になってきたものです。
こうした取り組みが全国各地で広がることで、私たちの暮らしはより豊かで安心できるものになっていくはずです。今回の表彰は、日々の積み重ねを続けてきた方々への大切な励ましであり、未来に向けた歩みを後押しするものでもあります。
環境や地域の未来を支えるこうした取り組みが、これからも長く続き、多くの人に知られていくことで、より良い社会につながっていくのだと思います。丁寧に続けられてきた活動が、今後も地域に根ざしながら発展していくことを期待しています。
公益社団法人環境生活文化機構 概要
環境と人の暮らしをテーマに、持続可能な社会の実現を目指して活動している公益団体です。1996年の設立以来、環境教育、地域づくり、生物多様性保全、資源循環など、幅広い分野で事業を展開し、行政・企業・学校・市民団体との連携を通じて、地域に根ざした取り組みを支えています。多様な主体が協働することで、未来につながる環境づくりと、よりよい社会の形成に貢献しています。









