渋谷の真ん中に、まるで“伊豆の温泉街”が出現しました。
10月12日(日)に開催された「都会でオフロう。渋谷温泉」では、東伊豆町・西伊豆町・河津町の3つの町が連携し、本物の温泉を使った足湯を体験できる特別な空間が作られました。
都会の雑踏の中に湯けむりが立ちのぼり、足元からじんわりと温まる――そんな非日常を求めて、家族連れや観光客など約2万人が訪れたそうです。
会場には、足湯だけでなく、温泉にまつわるクイズ大会やヨガ、さらに東伊豆の伝統工芸「雛のつるし飾り」作りといった体験も用意されていました。
一見“リゾート地のイベント”のようですが、舞台は渋谷。
そこに流れていたのは、地方のぬくもりと都会の活気が交わる、少し不思議で心地よい時間でした。
温泉で癒されるだけでなく、「地域と人をつなぐ新しい形のイベント」としても注目を集めた今回。
渋谷での一日限定の“温泉体験”を通して、都会にいながら地方の魅力を感じる人が増えているのかもしれません。
渋谷のど真ん中に“伊豆の湯けむり”

10月12日の日曜日、渋谷ストリーム前の稲荷橋広場に、思わず足を止める光景が広がっていました。
都会のビル群を背景に、湯けむりが立ちのぼる足湯ブース。そこに使われていたのは、静岡県の東伊豆町・西伊豆町・河津町という3つの町から運ばれた本物の温泉でした。
イベントのタイトルは「都会でオフロう。渋谷温泉」。
会場には、買い物途中の若者や観光客、子ども連れの家族まで、幅広い世代が集まりました。
足をお湯に浸けると、肌にふわりと伝わる柔らかさに思わず笑顔がこぼれ、慌ただしい日常の中で“ひと息つける場所”になっていたようです。
この日訪れた観覧者は約2万1千人。実際に足湯を体験した人は316名にのぼりました。
わずか1日限りのイベントにもかかわらず、多くの人が足を運んだのは、渋谷という大都市の真ん中で“地方のぬくもり”に触れられる新鮮さがあったからかもしれません。
湯けむりの向こうには、都会と地域がゆるやかにつながる新しい風景が広がっていました。
温泉を通じて“地域と人がつながる”トークイベント

足湯のそばでは、少し立ち止まって耳を傾ける人の姿も見られました。
ステージでは、「ココロもカラダも『オフる』まちのつくりかた」と題したトークイベントが行われ、東伊豆町の岩井しげき町長や、住まいの多拠点サービス「アドレス」の代表・佐別当隆志さん、そして地域づくりに携わる合同会社CGOドットコムのハラミさんらが登壇しました。
テーマは、“温泉をきっかけにした新しい地域との関わり方”。
温泉という癒しの文化が、人と人、地域と都市をつなぐコミュニケーションの場になる——そんな視点から、地域の未来や暮らし方について語り合いました。
話題は「移住」や「ワーケーション」といった言葉にも広がり、温泉地を拠点にした“心も体も整う暮らし方”の可能性を感じさせる内容となりました。
その場で交わされていたのは、観光PRではなく「どうすれば地域が幸せになれるか」という真剣な対話です。
イベントを通じて、伊豆半島のまちづくりに興味を持つ人が増えたのも頷けます。
会場には「地域を超えたつながりを体感できた」といった声も聞かれ、足湯を囲みながら生まれた交流が、都市と地方を結ぶきっかけになったようです。
誰もが楽しめる温泉コンテンツが満載

足湯を中心に、会場では温泉をテーマにしたさまざまな体験コンテンツも展開されていました。
子どもから大人まで楽しめる企画として人気を集めたのが、「温泉家・北出恭子さんと学ぶ!温泉◯✕クイズ大会」です。
“温泉の正しい入り方”や“泉質の違い”などを題材にしたクイズは、思わずためになる内容で、優勝者には伊豆半島の旅館宿泊券など豪華な賞品が用意され、会場は笑顔と歓声に包まれました。

一方で、足湯に浸かりながらリラックスした時間を過ごせる「足から温まるぽかぽかヨガ」も実施。
元LAVAインストラクターの赤松美香さんが講師を務め、足元から体をじんわり温めながら呼吸を整える時間が流れました。
「渋谷の真ん中で癒された」「伊豆の自然の中でもやってみたい」といった感想も多く寄せられ、日常の忙しさを忘れ、心と体を解きほぐすひとときになったようです。

さらに、東伊豆町の伝統工芸「雛のつるし飾り」制作体験も行われました。
地元の職人を招き、親子で布を縫い合わせながら小さな飾りを作る光景は、まるで温泉街の一角にいるよう。
手を動かすうちに自然と会話が生まれ、知らない人同士でも笑顔が交わされていました。
温泉のぬくもりだけでなく、人と人との“つながりのあたたかさ”が感じられる時間だったと言えそうです。
温泉をきっかけに広がる“地域とのつながり”

足湯に浸かる人、クイズ大会で盛り上がる人、つるし飾り作りに集中する人——。
思い思いにイベントを楽しむ参加者の表情には、どこか“素に戻った”ような穏やかさがありました。
会場では「渋谷に足湯があるなんてびっくりしました」「都会の中でこんなに癒されるとは思わなかった」といった声が多く聞かれました。
中には、「トークイベントを聞いて地域との関わり方を考えるきっかけになった」「伊豆の温泉に実際に行ってみたくなった」という反応も。
単なる癒しイベントではなく、地域の魅力を身近に感じることで、行動へとつながるきっかけを作っていたようです。
今回のイベントは、東伊豆町・西伊豆町・河津町の3町が連携して実現したものです。
地方の魅力を“持ってくる”のではなく、“共有する”という発想から生まれた試みとも言えます。
渋谷という多様な人が行き交う街で行われたからこそ、温泉が持つ“つながりの力”が一層引き立っていました。
都会で“オフロう”が伝えたメッセージ
ビルの谷間に湯けむりが立ち上る光景は、ほんの一日限りの出来事でした。
しかしその短い時間の中に、人と人、地域と都市がゆるやかにつながる瞬間が確かにありました。
日々の忙しさの中で、立ち止まって温かいお湯に触れる——それだけで心が少しほぐれ、見える景色も変わっていくのかもしれません。
今回の「都会でオフロう。渋谷温泉」は、ただのイベントにとどまらず、“癒し”というテーマを通して、地方が持つ豊かさを都市に届ける新しい形を示したように感じます。
渋谷で生まれたこの小さな足湯の輪が、やがて伊豆のまちへと広がっていく。
そんな未来を想像させる、心に残る取り組みでした。