「支えられる側」から「支える側」へ スポーツと福祉をつなぐ新たな就労モデルが始動

スポーツの世界には、選手だけでなく、その活躍を支える多くの人たちがいます。試合で使用する用具の管理やスパイクの手入れ、イベント運営のサポートなど、表舞台の裏側には欠かせない仕事が数多く存在しています。

そうした“支える仕事”を障がい者就労の場として活用する新たな取り組みが、東京都品川区で始まりました。2026年6月に開所した「ワークアリーナ天王洲」では、地域スポーツクラブと連携しながら、利用者がスポーツチームを支える役割を担います。

障がい者就労の分野では、工賃の低さや作業内容の選択肢が限られることが課題として挙げられてきました。今回の取り組みは、スポーツという身近な存在を通じて新たな働き方を生み出そうとするものです。

選手を支える仕事にはどのような役割があり、この取り組みはどのような可能性を持っているのでしょうか。ワークアリーナ天王洲の活動内容とあわせて紹介します。

「支えられる側」から「支える側」へ スポーツを通じた新しい就労の形

障がい者就労というと、軽作業や内職のような仕事をイメージする人も多いかもしれません。しかし、東京都品川区に開所した「ワークアリーナ天王洲」では、スポーツチームを支える仕事を就労の場として活用する新たな試みが行われています。

同施設は、地域スポーツクラブ「品川カルチャークラブ(品川CC)」と連携し、選手の活動を支える業務を就労プログラムとして展開します。特徴的なのは、利用者が単に支援を受ける立場ではなく、チームを支える役割を担う点です。
スポーツの現場では、選手が最高のパフォーマンスを発揮するために多くの人が関わっています。その中には、試合や練習で使用する用具の管理やメンテナンスを行うスタッフも含まれます。普段はあまり注目されることのない仕事ですが、競技を支えるうえで欠かせない存在です。

ワークアリーナ天王洲は、そうしたスポーツの裏方業務に着目し、新たな就労機会の創出を目指しています。スポーツと福祉を組み合わせた取り組みは全国的にも珍しく、今後の広がりが注目されそうです。

プロスポーツの現場を支える3つの仕事とは

ワークアリーナ天王洲では、スポーツチームを支えるさまざまな仕事に取り組みます。いずれも競技を陰で支える重要な役割であり、選手やクラブの活動を支える役割として関わることができます。

主な業務の一つが、ホペイロ業務です。ホペイロとは、選手が使用するスパイクや用具の管理を担当するスタッフのことを指します。スパイク磨きや用具の整理、ウェア管理などを行い、選手が競技に集中できる環境づくりを支えます。派手な仕事ではありませんが、スポーツチームの運営には欠かせない役割です。
また、クラブグッズやオリジナル商品の製作・販売にも取り組みます。商品づくりに関わることでアイデアや創作性を発揮できるだけでなく、完成した商品が実際に販売されることで、仕事の成果を実感しやすい点も特徴といえそうです。

さらに、試合会場や地域イベントの運営サポートも活動の一つとして予定されています。設営や運営補助などを通じて地域との接点を持つ機会が生まれ、スポーツをきっかけに多くの人と関わることができます。
これらの仕事に共通しているのは、誰かの活動を支える役割を担うことです。選手やクラブ、地域イベントの参加者など、多くの人を支える仕事に関わることで、自分の役割を実感しやすい環境が生まれるのではないでしょうか。

障がい者就労が抱える“低工賃”という課題

障がい者就労の分野では、工賃の低さが長年の課題として挙げられています。特に就労継続支援B型事業所では、利用者それぞれの状況に合わせて働ける一方で、収入面に課題を抱えるケースも少なくありません。

また、作業内容が限られてしまうことで、「社会とつながっている実感を持ちにくい」「自分の仕事がどのように役立っているのか分かりにくい」といった声が聞かれることもあります。
ワークアリーナ天王洲では、こうした課題に対してスポーツビジネスとの連携という形で新たなアプローチを試みています。選手やクラブを支える仕事に携わることで、自分の仕事が誰かの活動につながっていることを感じやすくなるからです。

施設では、月20日程度の稼働を想定し、月額35,000円以上の工賃を目標として掲げています。もちろん工賃だけが就労の価値ではありませんが、働いた対価を得ることは自立や社会参加を考えるうえで重要な要素の一つです。
近年は企業や自治体を中心に、障がいの有無に関わらず活躍できる環境づくりが進められています。その中で、スポーツという身近な分野を活用しながら就労機会を広げようとする今回の取り組みは、新たな選択肢として注目を集めそうです。

仕事を通じて自己肯定感を高める取り組みに期待

仕事には収入を得るだけでなく、社会とのつながりを感じたり、自分の役割を見つけたりする側面もあります。だからこそ、「誰かの役に立っている」と実感できることは、働くうえで大きな意味を持つのではないでしょうか。

ワークアリーナ天王洲が目指しているのも、単に作業を提供する場ではなく、利用者一人ひとりが役割とやりがいを持てる環境づくりです。スポーツチームを支える仕事は、選手やクラブ、地域イベントなど多くの人とのつながりの中で成り立っています。
例えば、手入れされたスパイクが選手のプレーを支えたり、準備された会場でイベントが開催されたりと、一つひとつの仕事が誰かの活動につながっています。直接的に成果が見えやすいことも、この取り組みの特徴といえそうです。

また、スポーツは年齢や立場を超えて多くの人をつなぐ力を持っています。そのため、就労支援とスポーツを組み合わせることで、地域との交流やコミュニティ参加の機会が広がる可能性も期待されます。

スポーツと福祉をつなぐ新たな挑戦に注目

スポーツは競技そのものだけでなく、多くの人が関わることで成り立っています。その裏側には、選手を支えるさまざまな仕事があり、そうした役割に光を当てた今回の取り組みは、障がい者就労の新たな可能性を感じさせるものです。

ワークアリーナ天王洲では、スポーツチームを支える仕事を通じて、工賃向上だけでなく、社会とのつながりや自己肯定感の向上も目指しています。「支えられる側」ではなく「支える側」として活躍できる環境づくりは、多様な働き方が求められる現代において一つのヒントになるかもしれません。
障がい者就労を取り巻く課題の解決にはさまざまな取り組みが必要ですが、スポーツと福祉を結び付けた今回のような挑戦が、新たな選択肢を広げるきっかけになることも期待されます。

地域とのつながりを生み出しながら、一人ひとりが役割と誇りを持って働ける社会へ――。スポーツと福祉を結ぶ今回の取り組みが、今後どのように発展していくのか注目したいところです。