赤ちゃんが生まれてから間もない時期は、まだ体の免疫が十分ではなく、さまざまな感染症に注意が必要だといわれています。中でも「RSウイルス」は、風邪のような症状から始まりながらも、乳児の場合は気管支炎や肺炎などの重い症状につながることがある感染症として知られています。
こうした背景の中で注目されているのが、妊娠中に接種することで、生まれてくる赤ちゃんを守ることにつながる「RSウイルスワクチン」です。妊婦が接種することで体内で作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんへと移行し、出生直後から感染症の重症化を防ぐ効果が期待されています。
これまで任意接種(3万円前後)として行われてきたこのワクチンですが、4月から始まる定期接種では、原則無料でワクチンを接種することが可能となります。定期接種の対象は28~36週の妊婦で、接種は1回のみ。2人目以降の妊娠で再び接種する場合なども対象になります。妊婦を対象とした定期接種が導入されるのは初めての取り組みでもあり、赤ちゃんの健康を守る新しい選択肢として関心が高まっています。
RSウイルスとはどのような感染症なのか、そして母子免疫ワクチンとはどんな仕組みなのか。制度のポイントや産婦人科医で医学博士の宋美玄医師の見解も交えながら、その内容を整理していきます。
2歳までにほぼ100%が経験するRSウイルス感染症とは

RSウイルスは、乳幼児にとって身近な感染症のひとつです。咳やくしゃみなどによる飛沫感染や、ウイルスが付着した物に触れることで感染が広がるとされており、症状としては鼻水や咳、発熱など、いわゆる風邪に似た症状が現れることが多いといわれています。
大人の場合は比較的軽症で済むことも多く、気づかないうちに感染していることもあるため、日常の中で見過ごされやすい感染症ともいわれています。しかし、免疫が十分に発達していない赤ちゃんにとっては注意が必要な病気です。
特に生後6か月未満の乳児では、細い気管支に炎症が起きる「細気管支炎」や、肺炎などを引き起こすことがあり、呼吸が苦しくなるなど重症化するケースも報告されています。症状が悪化した場合には入院が必要になることもあります。
RSウイルスの特徴として知られているのが、2歳までにほぼすべての子どもが一度は感染するとされています。また、2歳までに感染した子どものうち、約4人に1人が入院を必要とするという報告もあります。
さらに、RSウイルス感染症はその場の症状だけでなく、将来、後遺症として喘息になる可能性が指摘されることもあり、乳幼児期の健康に影響を与える感染症として世界的にも研究が続けられています。
現在のところ、RSウイルスそのものを直接治療する薬は確立されておらず、基本的には症状に応じた対処療法が中心になります。そのため、これまでは手洗いや消毒などの感染対策を行いながら、できるだけ感染の機会を減らすことが重要とされてきました。
こうした背景の中で注目されているのが、妊娠中に接種することで生まれてくる赤ちゃんを守ることにつながる「母子免疫ワクチン」です。赤ちゃんが自分でワクチンを接種できない時期をどう守るかという課題に対する、新しい予防の考え方として関心が高まっています。
妊娠中の接種で赤ちゃんを守る「母子免疫ワクチン」の仕組み

赤ちゃんをRSウイルスから守る新しい方法として注目されているのが、妊娠中に接種する「母子免疫ワクチン」です。これは、生まれてから赤ちゃん本人がワクチンを受けるのではなく、お母さんが妊娠中に接種することで赤ちゃんを守るという仕組みのワクチンです。
妊婦がワクチンを接種すると、体内でウイルスに対する抗体が作られます。この抗体は血液の流れに乗って胎盤を通り、お腹の中の赤ちゃんへ移行します。つまり、お母さんの体の中で作られた免疫を赤ちゃんが受け取る形になり、生まれた直後から感染症への備えができるという考え方です。
研究では、妊娠中にワクチンを接種した場合、生まれた赤ちゃんのRSウイルス感染による重症化を防ぐ効果が確認されています。生後3か月以内では重症化予防効果が約81.8%、生後6か月以内でも約69.4%にのぼると報告されています。
これまでこのワクチンは任意接種として扱われ、接種費用は自己負担でした。しかし、制度の見直しにより、2026年4月からは定期接種として公費による支援が受けられる予定となっています。妊婦を対象とした定期接種が導入されるのは初めてのことです。
また、接種後にみられる副反応としては、接種した部位の痛みや頭痛、筋肉痛などが報告されていますが、大規模なデータでは早産や妊娠高血圧症候群などのリスク増加は確認されておらず、重篤な副反応について重大な懸念は認められていないとされています。 生まれたばかりの赤ちゃんを感染症から守る方法は限られています。その中で、妊娠中にできる予防策として、母子免疫ワクチンは新しい選択肢のひとつとして注目されています。
SNSでも広がる期待の声 専門家が語るワクチンの考え方

RSウイルスワクチンの定期接種化については、SNSでもさまざまな声が見られます。実際に子どもがRSウイルスに感染した経験を持つ保護者からは、「妊娠中にワクチンを打っておけばよかったと思った」という投稿もあり、赤ちゃんの重症化を防ぐ手段として関心を寄せる声が広がっています。
また、すでに任意接種としてワクチンを受けたという人からは、「自費でも接種するつもりだったので、制度として支援が受けられるのは助かる」といったコメントも見られます。新しい制度が始まることで、これまで費用面で接種を迷っていた人にとっても選択肢が広がる可能性があります。4月は、接種希望者が殺到する可能性も懸念されているようです。接種を希望する方は、早めに予約することがおすすめかもしれません。
こうしたワクチンについて、産婦人科医で医学博士の宋美玄医師は、RSウイルスを「風邪症候群を引き起こすウイルスの一種」と説明しています。以前は単なる風邪として扱われることもありましたが、乳児の場合は重症化することがある感染症として知られています。
母子免疫ワクチンは、お母さんの体の中で作られた抗体が胎盤を通って赤ちゃんに移行する仕組みで、いわば赤ちゃんに抗体をプレゼントするようなものだといいます。妊娠中に接種することで、赤ちゃんが生まれてから感染症に対する備えを持った状態になるとされています。
ワクチンの安全性についても、海外での使用実績や臨床試験を通じて確認が進められており、重い副作用は報告されていないとされています。接種した部位の痛みや軽い体調変化などは見られることがありますが、他のワクチンと同様の範囲とされています。
一方で、SNSにはさまざまな情報が流れており、不安を感じる内容だけが目に入ってしまうこともあると指摘されています。情報を判断する際には、インターネット上の情報だけに頼るのではなく、かかりつけの産婦人科医など専門家に相談することが大切だとされています。
赤ちゃんの健康に関わるテーマだからこそ、正しい情報をもとに判断していくことが大切です。
宋美玄医師について

産婦人科専門医・医学博士。丸の内の森レディースクリニック院長。
大阪大学医学部卒業後、大学病院や医療機関で周産期医療に携わり、胎児医療の分野でも研鑽を積んできました。
女性の健康や妊娠・出産に関する情報発信にも積極的に取り組み、メディアや書籍などを通じてヘルスリテラシー向上を呼びかけています。









