母親が安心して子育てできる環境づくりは、地域や制度だけでなく、社会全体の理解と支えが欠かせません。近年、授乳や搾乳の場所が限られていたり、正しい医療情報が届きにくかったりと、子育てを取り巻く課題は多岐にわたります。そうしたなかで、全国で静かに、しかし確かな広がりを見せている取り組みがあります。
NPO法人ひまわりの会は、母子を取り巻く「困りごと」を一つずつ拾い上げ、行政・医療・公共交通など、幅広い分野と協力しながら、利用者にとって実際に役立つ仕組みづくりを続けている団体です。搾乳や授乳をより安心して行えるための環境整備、医療情報の正しい理解を広げる啓発活動、そしてデジタル技術を活用した新しい子育て支援など、活動内容は多岐にわたりながらも「母親と子どもの安心を守る」という一本の軸でつながっています。
最近では、大阪府や東京都との連携、高速道路サービスエリアでのステッカー掲示、助産師団体との協働など、母子支援の現場に寄り添う動きが加速しています。小さな施策の積み重ねが、実は多くの家庭の心強い支えになっているのだと感じます。
この記事では、ひまわりの会がこれまでに取り組んできた活動の中から、特に印象に残ったプロジェクトを紹介します。
母親が安心して搾乳できる環境づくりを広げる動き

授乳や搾乳は、赤ちゃんのためだけでなく、母親の体調を守るうえでも欠かせない行為です。ところが、外出先で搾乳が必要になった際に「授乳室は赤ちゃん連れでないと入りにくい」「そもそも搾乳できる場所が分からない」という声は今も少なくありません。そうした“見えない困りごと”に向き合い、利用者にとって分かりやすいサインを広げようとしているのが「搾乳もできますステッカー」です。

最近では、このステッカーの掲示が大阪府内の施設で広がりつつあり、府有施設を中心に授乳室への設置が進められています。さらに興味深いのは、高速道路のサービスエリアでも掲示が始まっている点です。長距離移動中に安心して立ち寄れる場所が増えることは、子育て中の家庭にとって大きな意味を持ちます。全国約250か所で展開が始まっているという事実からも、社会的な関心の高まりがうかがえます。
“授乳室=赤ちゃんを連れて入る場所”という固定観念をほぐし、搾乳だけの利用でも安心して入れる環境をつくる。この小さな一歩が、外出中の不安を軽くし、子育てを支える仕組みとして広がりつつあるように感じます。
東京都と進める「赤ちゃん目安箱」 支援のヒントは“声を拾うこと”から

子育ての中で感じる不安や困りごとは、なかなか周囲に伝えづらいものです。「誰に相談すればいいのか分からない」「小さな悩みだから言いづらい」と感じてしまう人も多く、結果的に孤立感を深めてしまうケースもあります。そんな“声にならない声”を丁寧に拾い上げようとする試みが、東京都と協力して実施された「赤ちゃん目安箱」です。
この取り組みでは、日々の育児で感じた疑問や負担を気軽に書き込める窓口を設け、寄せられた意見を行政の施策づくりに役立てることを目指しています。母親の声はもちろん、家族や周囲のサポートに関わる人々からの意見も集まり、実際の生活に即したリアルな課題が見えてくる仕組みです。
子育て支援は「制度を作れば終わり」ではなく、利用者の声を継続的に受け止め、改善を繰り返していくことが欠かせません。赤ちゃん目安箱は、その最初の一歩として意義深く、行政と市民が同じ方向を向いて課題と向き合うための“橋渡し”にもなっています。育児の経験は家庭ごとに異なりますが、誰かの小さな気づきが、多くの人にとっての安心につながる可能性を感じさせる取り組みです。
紙の健診票をそのまま活かせる“AI読み取り” 母子手帳のデジタル化が一歩前へ

子育ての記録は大切と分かっていても、「入力する手間」が負担になる場面は少なくありません。母子健康手帳に手書きされた数字を、あとからアプリに打ち直す作業は、忙しい日常の中ではなかなか続けにくいものです。そんな悩みに応えるように登場したのが、健診票をスマートフォンで撮影するだけで自動入力してくれる新しい機能です。
アプリに記録したい項目を紙から写し取るのではなく、“撮るだけで反映される”という仕組みは、育児の情報管理を一段と身近なものにします。健診日、体重、身長、胸囲、頭囲といった基本項目が読み取られ、データとしてアプリ内に保存されるため、記録の手間が大幅に減るのが特徴です。紙の記録を否定するのではなく、今までの資源をそのまま生かしながらデジタルに橋渡しする形が、とても現実的だと感じます。
この機能は、利用者から寄せられた「紙の記録をそのまま活用したい」という声がきっかけで開発が進んだそうです。ユーザーの使い勝手を丁寧に拾い上げ、小さな負担を少しずつ取り除く姿勢は、育児に寄り添う取り組みとして好感が持てます。今後は自治体や医療機関との連携も予定されており、健診や予防医療の場面でもデジタル化がより広がっていきそうです。
助産師との連携で実現する“専門家に届きやすい支援”

妊娠や出産に関する悩みは、インターネットだけでは解決しにくいことが多く、最終的には専門家の言葉が安心につながる場面も少なくありません。そんな相談のハードルを少しでも下げようと、母子健康手帳デジタル版と助産師団体が連携し、妊産婦をサポートする取り組みが広がっています。
この連携では、助産師がアプリを通じてアドバイス情報を提供したり、全国の相談窓口と直接つながれる仕組みが整えられたりと、必要なときに専門家へアクセスしやすい環境が整えられています。妊娠中の身体の変化やお産の不安、赤ちゃんのお世話に関する悩みなど、家庭ごとに異なる疑問に個別で相談できるのは心強いと感じます。
また、アプリ内に保存されたデータを希望者の保健指導に活用できることも特徴です。健診記録や日々の変化が整理されていることで、より適切なアドバイスにつながりやすくなる点は、デジタルならではの強みといえます。
ひまわりの会はこれまでもデジタルマタニティマークやApple Watchを活用した妊産婦支援など、ITを活かした取り組みを積極的に進めてきました。今回の助産師団体との協働は、そうした流れをさらに一歩進め、専門家と利用者をより近い距離でつなぐ試みとして広がっていく印象があります。小さな不安が積み重なる前に、誰かに相談できる環境が整うことは、多くの家庭にとって大きな安心につながりそうです。
母子に寄り添う取り組みが広がる未来へ
子育ては家庭だけで抱え込むものではなく、社会全体で支えていくものだと言われます。ひまわりの会がこれまで続けてきた取り組みは、その言葉を具体的な形にしようとしてきた歩みのように感じます。行政や医療機関との連携、デジタル技術の活用、そして専門家につながりやすい環境づくり。どれも大きな仕組みを変えるだけではなく、一人ひとりの困りごとに向き合う姿勢が根底にあります。
搾乳や授乳のための環境整備、赤ちゃんの声を行政につなぐ仕組み、健診記録のデジタル化、助産師との協働など、多方面での取り組みが積み重なることで、子育ての不安が少しずつ軽くなっていくのではないでしょうか。こうした動きが広がることで、母親も家族も、より安心して日々を過ごせる社会に近づいていくと感じます。
小さな改善や工夫がつながり、誰もが子育てしやすい未来が当たり前となることを願いながら、今後の活動にも注目していきたいと思います。
特定非営利活動法人ひまわりの会 概要
ひまわりの会は、「花を通じて人の心を癒し、社会に貢献する」という理念から1997年に岐阜県で設立された団体です。設立以来、多くの自治体や医療団体の協力を得ながら、妊婦さんと家族を支える活動を全国へ広げてきました。
現在は、全国47都道府県で年間約110万人を対象に「自動車用マタニティステッカー」を配布するほか、母子保健に関する情報発信やサポート活動も継続しています。妊婦さんと赤ちゃんが安心して過ごせる環境づくりを目指し、さまざまな形で支援の輪を広げている団体です。









