女性が自分らしいキャリアを築くには、何をよりどころに道を選ぶべきでしょうか。
選択肢が広がる現代だからこそ求められる“選択の力”をキーワードに、東京都は8月25日、スタートアップ支援施設「Tokyo Innovation Base」にて「Women in Action: Choosing Your Career」を開催。「選択の心理学」研究者をはじめ、企業・行政のリーダーが集い、意思決定の視点や社会的な環境づくりの重要性についての議論が交わされました。
イベントには小池百合子都知事もかけつけ、日本の将来を担う高校生たちとの意見交換も。“選択”が未来を形づくるというメッセージが一層強調されました。
“選択”提唱者が語る「選択は自己表現であり創造」

まずはじめに、コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授が登壇。長きにわたる“選択の心理学”研究の第一人者として、冒頭に「私たちは“選択”を通じて未来を形づくります」と強調しました。
人生には“運命”や“偶然”といった要素もありますが、唯一自分の意思で握れるのは“選択”という視点です。ここで教授は1995年に自身が発表した「ジャムの法則」を例に挙げ、「人は選択肢が多すぎると意思決定に迷い、満足度も下がる。人間の認知は3〜5の選択肢に絞られたときに最も力を発揮する」と指摘。さらに「選択肢は与えられるものだけではなく、自分自身の価値観に基づいて新たに生み出すこともできる」と強調しました。
そして「リーダーとは、まだ誰も見ていない可能性を見いだし、新しい選択肢を創造できる人です」と提言。参加者の心に強い印象を残しました。
多様な経験がキャリアを広げる

続くパネルディスカッションでは、先のアイエンガー教授に加え、アサヒグループホールディングス会長の小路氏と小池百合子都知事、そしてモデレーターをつとめる塚原月子氏が登壇。それぞれのキャリア形成にまつわる経験を語りました。

小路氏は、同社にて休職を経て赤字部門の立て直しを任された経験や、労働組合での活動を通じて幅広い視野を獲得したことを紹介。
思想的な対立の中で多様な考え方に触れたことや哲学書から得た知識が、自身の判断力やキャリア観を豊かにしたとしています。 さらに「異文化や異論に触れることは非常に大事なことだと思います」と、自らの経験を生かしたアドバイスを送りました。

小池都知事は、従来の一般的な進路ではなく中東研究を選んだ学生時代を例に挙げました。「訪れた国では必ず一泊する」という独自のルールを設けたといい、そこで得た知見が後に政策立案や人材活用の基盤となったと説明。若い世代に向けて「挑戦を受け入れることで視野が広がる」とエールを送りました。

続けてシーナ・アイエンガー教授も、自身が異文化で研究を行った経験から「最高のキャリアの選択とは、“選択”そのものを学ぶことだ」と力強く進言。
どの登壇者の発言にも「未知の経験に飛び込み、多様な視点を持つことがキャリアを豊かにする」という共通したメッセージが浮かび上がりました。加えて、選択肢があふれる現代においては「優先順位をつける」ことが意思決定の質を高める鍵である、という具体的な示唆も示されました。
組織に求められる取り組み

議論は、個人の努力にとどまらず、組織や社会がどのような仕組みを提供できるかにも及びます。
小池都知事は「女性は人口の半分であり、その力を活かすことは社会の活力に直結する」と言及。育児休暇制度の拡充や復職支援など、公平な成果につながる政策の必要性を強調しました。
一方、小路氏は「機会の平等」と「結果の平等」を分けて考える視点を提示。アサヒグループとして「2030年までに管理職の40%を女性にする」という目標を掲げ、多様性の推進を企業戦略に位置づけていると明言しました。
さらにアイエンガー教授は、性別や立場に左右されない「匿名アイデア投稿制度」や、メンターにインセンティブを与える仕組みを提示。こうした制度設計により、「無意識の偏見を減らし、イノベーションを促すことができる」としました。
現役高校生との意見交換
パネルディスカッションの後には、登壇者たちへ向けた高校生からの質疑応答も行われました。

「賃金格差」や「男女平等」をテーマに、高校生たちは日本の制度について「まだ課題は残る」と指摘。これに対し登壇者たちは「無意識の偏見に挑戦し、性別にとらわれず仕事を選ぶこと」が重要だと強調しました。

小路氏は、AI技術の進歩や目まぐるしく動く社会情勢など、将来が予測できない現代社会を踏まえ「未来をゼロベースで設計し、自分の理想から逆算して行動すべき」というアドバイスを送ります。
そして小池知事は、東京都の取り組みとして、育児休暇を「育業」と言い換えたことで男性の参加率が飛躍的に伸びた事例を紹介。高校生たちにとっても、将来の自分たちの選択や行動を考えるきっかけとなったようです。
膨大な選択肢の時代に考えるべきこと
今回のイベントには、「選択することは、自分をつくることにほかならない」というメッセージがこめられていました。また、個人が自らの価値観に沿って選択を重ねていくためには、社会や組織が公平な仕組みを整える必要があることを、あらためて再認識させられる場となったのではないでしょうか。
“選択の力”をどう活かすか――たとえば「大学院に進むか就職するか」「どの分野で専門性を磨くか」など、日常の小さな決断も含め、誰もが直面する課題です。
あなたはどんな“選択”を積み重ねて、自分らしい未来を描きますか?