障がいのある方と学生が“友だち”として旅を楽しむ――。
そんな温かな風景を描く取り組みが、千葉県から広がりを見せています。
「パラ旅応援団」は、支援する側・される側という立場を越え、互いを“応援し合う仲間”としてつながる新しいかたちのユニバーサルツーリズムです。旅を通して、障がいのある方が自分らしく過ごせる時間をつくり、学生ボランティアにとっても人との関わりを学ぶ貴重な場となっています。
この活動を続けているのは、千葉県習志野市を拠点とするNPO法人おりがみ。2023年度の県事業から生まれ、いまでは民間主導で広がりを見せています。次回は11月16日、成田ゆめ牧場を舞台に約300人が参加する一日が予定されています。音楽やダンス、動物とのふれあいなどを通して、誰もが笑顔で過ごせる時間を共有します。
「どこへ行くか」よりも「誰と行くか」。
その想いが、多様な人が一緒に旅を楽しめる社会を少しずつ形にしています。
“支援”ではなく“応援”から生まれる旅のかたち

障がいのある方の外出と聞くと、病院への通院や買い物など、生活のための移動を思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど、「誰かと一緒に出かけて遊ぶ」「好きな場所へ行く」といった“楽しみのための外出”は、実はまだ限られています。
現状では、外出支援の制度が整っていても、行き先が「支援しやすい場所」や「決められた範囲」に偏ってしまうことが少なくありません。本当に行きたい場所を選び、自由に楽しむという経験がしづらい現実があります。
観光庁の調査では、もし障がいのある方にとって行きやすい環境が整えば、年間で564万回を超える新たな観光需要が生まれるといわれています。裏を返せば、それだけ多くの人が“本当はもっと出かけたい”と思っているということです。

そんな背景の中で生まれたのが、「パラ旅応援団」という取り組みです。
この活動が大切にしているのは、「支援する」「支援される」という一方向の関係ではなく、“応援しあう”という考え方。障がいのある方と学生ボランティアが同じ目線で旅を楽しみ、お互いの挑戦を自然に励まし合う――そんな関係性を目指しています。
多少の不便さがあっても、学生と一緒に現地へ出かけ、実際に体験を重ねる。その積み重ねが、観光地側にリアルな学びを生み、少しずつ誰もが訪れやすい環境づくりへとつながっていきます。
「支援」ではなく「応援」から生まれる旅。
そこには、助ける・助けられるという垣根を越え、人と人が自然につながる優しい循環があります。
学生とともに育つ“パラ旅応援団”という活動

「パラ旅応援団」は、もともと2013年に立ち上がった学生団体が原点です。
若者が「自分たちにできる形で社会と関わりたい」という思いから生まれた活動は、2019年に千葉県のパラスポーツ振興事業としてスタート。その後、2021年度からはNPO法人おりがみが主体となって運営を続けています。
この活動の根底にあるのは、“同じ目線で共に楽しむ”という姿勢です。障がいのある方と学生がペアやグループを組み、旅先で過ごす時間の中で、互いの個性を理解し、自然な関係を築いていきます。誰かの手を引くのではなく、一緒に笑い、一緒に挑戦する。そんな日常の延長のような関わりが、参加者の心に深く残ります。

これまでに、障がいのある方109名、学生ボランティア239名を含む、延べ600名以上がこの活動に参加してきました。大学のゼミや部活動が協力するケースも多く、若者が現場で学び、社会の中で「誰かを支える」ことの意味を実感できる場となっています。
また、パラ旅応援団の活動には、行政や企業の協力も欠かせません。県や市、教育委員会、大学、地域企業などが協力し合い、福祉と観光をつなぐ新しい形の地域連携を実現しています。関わる人が増えるほど、そこに新しいアイデアや温かい視点が加わり、活動は年々進化しています。
若者の発想と行動力、そして地域の力が組み合わさることで、パラ旅応援団は単なるボランティア活動を超えた“共創の場”へと成長しています。そこには「誰かのために」ではなく、「一緒に楽しみたい」というまっすぐな気持ちが流れています。
成田ゆめ牧場での“応援の一日”

千葉県成田市の「成田ゆめ牧場」を舞台に、11月16日(日)、「パラ旅DAY ~成田ゆめ牧場11月編~」開催予定です。
参加するのは、障がいのある方、学生ボランティア、ヘルパー、福祉関係者など約300名。広大な牧場の自然の中で、音楽や動物とのふれあい、アクティビティを通して、一日を共に過ごします。

この日のプログラムには、「誰かを助ける」ための特別な仕組みはありません。代わりに、誰もが自然に楽しめるよう工夫された“共創体験”が用意されています。たとえば、音楽プロデューサーの声松優一氏やバイオリニスト橘麻衣氏による生演奏では、観客と出演者の垣根がなく、全員が一緒に歌い踊るステージが展開されます。成田国際高校のダンス部や、ダウン症のある子どもと家族の会「ジュピター」による手話ダンスも登場し、音楽を通じて“応援の輪”が広がっていきます。
また、牧場内では、動物とのふれあい体験や乳搾り、芝すべり、アーチェリーなど、多彩なアクティビティが行われます。参加者はグループごとに「何をやりたいか」を自分たちで話し合い、自由に行動します。そこでは、障がいの有無に関係なく、「できることを一緒に楽しむ」姿が自然に生まれます。

昼食には、全員が同じテーブルを囲んで食べられる「ユニバーサルお昼ごはん」が提供されます。重度の障がいがある方でも楽しめるよう、ペースト食の工夫もされており、誰もが“同じ食卓を囲む時間”を共有できます。

そして、1日の締めくくりには、千葉県の人気キャラクター・うなりくんやちーばくんも登場。笑顔と拍手に包まれながら、旅の思い出を分かち合うクロージングセレモニーが行われます。
この日の体験は、参加者にとって特別な一日であると同時に、観光地にとっても大切な学びの時間になります。どんな工夫があれば障がいのある方が安心して楽しめるか――その“実体験”が積み重なることで、地域全体が少しずつ変わっていくのです。
「どこへ行くか」よりも「誰と行くか」。
その言葉の意味を、参加する全ての人が肌で感じる一日となるでしょう。
未来へ続く“応援の輪”

パラ旅応援団の活動は、一度きりのイベントで終わるものではありません。
成田ゆめ牧場で得られた体験や気づきは、参加者だけでなく、観光地や地域社会にとっても貴重な財産となります。現場で得た学びをもとに、次の旅先でより良い環境をつくっていく――その積み重ねが、ユニバーサルツーリズムの実現へと近づけていきます。
今後は千葉県内にとどまらず、全国の観光地や教育機関、企業とも連携しながら、定期的な開催を目指しているそうです。障がいのある方が“友だちと旅に出かける”ことを、特別な出来事ではなく「当たり前の選択肢」にしていく。そのために、若者の発想と地域の力を結びながら、共に挑戦を続けています。
この取り組みの中心にあるのは、やはり人のつながりです。
誰かを思いやる気持ち、手を差し伸べる勇気、そして共に笑い合う時間。そうした一つひとつの瞬間が、社会を少しずつやさしく変えていきます。
旅を通して“支援”が“応援”へと変わる――。
その小さな変化の積み重ねが、誰もが安心して出かけられる未来をつくっていくのかもしれません。
パラ旅応援団が描くのは、誰かのための旅ではなく、みんなで笑い合う旅。
その輪はこれからも広がり、やがて社会の新しい風景をつくっていくでしょう。
NPO法人おりがみ 概要
ボランティアを通じて、あなたの普段と違った「もうひとつの役割」を、一緒に生み出すチーム。
それがNPO法人おりがみです。
あらゆる人が自分の可能性を諦めずに、夢のために力を発揮し、その力が誰かのためにもなっている――。
そんな社会を信じて、おりがみは活動を続けています。
2014年に学生団体として誕生し、2021年にNPO法人化。
障がいのある方と若者が共に旅を楽しむ「パラ旅応援団」をはじめ、地域・教育・文化をつなぐ多彩なプロジェクトを展開しています。
誰もが“もうひとつの居場所”を持てる社会を目指し、ボランティアの新しいかたちを創り続けています。









