ダムの底に、どれくらいの土や砂がたまっているのか。
それを正確に知ることは、私たちの暮らしを支えるインフラを守るうえで欠かせない作業です。
一方で、広い水面を人の手で測り続ける調査は、時間も手間もかかり、現場の負担になってきました。人手不足や安全面への配慮が求められる今、そのやり方自体を見直す必要が出てきています。
兵庫県が管理するダムで行われた今回の実証実験は、そうした課題に対し、水上を自動で航行する水上ドローンボートを使って応えようとする取り組みです。
「測る」という地道な作業を、もっと安全に、もっと続けやすいものにできないか。
その問いに向き合う姿勢の背景には、長年“計測”と向き合ってきた企業の思想と確かな技術がありました。
なぜ今、ダムの「測り方」を見直す必要があったのか

ダムは、水をためるだけの施設ではありません。洪水を防ぎ、安定した水資源を確保するため、長い時間をかけて地域の暮らしを支えてきました。その役割を維持するうえで欠かせないのが、ダムの底にどれだけ土や砂がたまっているかを把握する「堆砂調査」です。
しかしこの調査は、見た目以上に手間がかかります。広い水面を船で移動しながら、一定間隔で深さを測り、その結果をもとに全体の状況を推定していく。人の経験や作業量に頼る部分も多く、時間と労力が必要でした。加えて近年は、調査に携わる人材の確保や、安全面への配慮も課題になっています。
こうした背景を受け、兵庫県が管理するダムでも、従来の方法を続けるだけでよいのかという問いが生まれていました。調査の精度を保ちながら、作業負担を減らすことはできないのか。限られた人員でも、継続的に管理していく方法はないのか。その答えを探るために行われたのが、今回の実証実験です。
「調査を効率化する」という言葉は簡単ですが、その裏には、現場を止めず、日常の管理を守り続けるという切実な事情があります。この実証実験は、新しい技術を試すこと自体が目的ではなく、ダム管理をこれからも現実的に続けていくための選択肢を探る取り組みだったと言えます。
「測る」ことと向き合い続けてきた企業の視点

今回の実証実験で中心的な役割を担ったのが、古野電気株式会社です。
船舶用電子機器の分野で長年技術を磨いてきた同社にとって、「正確に測る」という行為は事業の根幹とも言えるテーマです。
魚群探知機をはじめとした超音波技術は、目に見えない水中の状況を可視化するために発展してきました。その技術が向き合ってきたのは、決して派手な場面ばかりではありません。安全な航行や操業を支えるため、日々の判断を裏側から支える存在として、計測技術は積み重ねられてきました。
そうした背景を考えると、ダムというフィールドに技術を持ち込む今回の実証実験は、決して突発的な挑戦ではないことが見えてきます。水域は違っても、「現場を安全に、正確に把握する」という課題の本質は変わらないからです。

特に今回の取り組みでは、最新技術を前面に押し出すというよりも、現場で無理なく使い続けられるかどうかが重視されています。扱いやすさや作業人数、準備にかかる負担まで含めて設計されている点は、現場を知る企業ならではの視点だと言えるでしょう。
測定精度の高さだけでなく、「誰でも扱える」「続けられる」という条件を満たすこと。その積み重ねこそが、社会インフラを支える技術には求められています。今回の実証実験は、そうした姿勢を形にしようとする試みでもありました。
水上ドローンという選択がもたらした変化

今回の実証実験で使われたのは、水面を自動で航行しながら深さを測定できる水上ドローンボートです。人が乗らず、あらかじめ設定したルートに沿って動くことで、ダム全体を効率よく計測できる仕組みになっています。
従来の調査では、測定の準備や後片付けにも多くの時間がかかり、作業そのものも人の手に頼る場面が少なくありませんでした。一定間隔で測った数値をもとに全体を推定するため、どうしても情報は点や線に限られてしまいます。
それに対し、水上ドローンを使った計測では、広い範囲を一度に捉え、立体的にデータを把握することができます。計測中は自動航行のため、操船の必要がなく、作業に集中できる点も特徴です。人が入りにくい浅瀬でも測定できるため、これまで見えにくかった部分まで把握できるようになります。
実証実験では、調査全体にかかる時間や準備の手間が大きく減り、効率化の効果が確認されました。ただ重要なのは、単に「早くなった」という点だけではありません。人の負担が減ることで、調査を継続しやすくなること、安全面のリスクが下がることも、大きな変化の一つです。
水上ドローンは、万能な答えというよりも、現場の課題に対する現実的な選択肢の一つです。従来の方法をすべて置き換えるのではなく、必要な場面で取り入れることで、調査のあり方を柔軟に変えていく。その可能性が、この実証実験から見えてきます。
今回の実証実験が示した、これからのインフラ管理

今回の実証実験が示したのは、ダム調査の効率化という一点だけではありません。限られた人手や時間の中で、どうすればインフラ管理を無理なく続けていけるのか。その問いに対する、現実的な一つの方向性です。
水上ドローンによる計測は、ダムに限らず、ため池や河川、湾岸といったさまざまな水域への応用が考えられています。人が入りにくい場所や、これまで調査の負担が大きかった現場ほど、その価値は発揮されやすいでしょう。
また、こうした技術は「一度導入して終わり」ではなく、使い続けられるかどうかが重要です。準備や運用が複雑すぎれば、どれだけ高性能でも現場には定着しません。今回の実証実験では、作業人数や扱いやすさまで含めて検証されており、日常の管理に組み込むことを前提にした視点が感じられます。
インフラは、完成した瞬間ではなく、維持され続けることで価値を持ちます。測り方を変えることは、その裏側にある管理の考え方を見直すことでもあります。今回の取り組みは、派手さよりも持続性を重視した、小さくも確かな一歩だったと言えるでしょう。
「測る」技術が、社会を支え続けるために
ダムの底にたまる土や砂を測るという作業は、日常生活の中で意識されることはほとんどありません。しかし、その積み重ねがあるからこそ、私たちは安全な水環境の中で暮らすことができます。
今回の実証実験は、新しい技術を披露する場というよりも、社会インフラをどう支え続けていくかを考える取り組みでした。人の負担を減らし、安全性を高め、必要な調査を継続できる形にしていく。その姿勢が、結果として技術の価値を高めていきます。
目立たない場所で行われる「測る」という仕事に、どれだけ真剣に向き合えるか。今回の取り組みは、そうした問いを静かに投げかけているようにも感じられます。
古野電気株式会社 概要

古野電気株式会社は、船舶用電子機器をはじめとする計測・航行支援技術を手がけてきた企業です。長年にわたり培ってきた超音波技術と電子技術をもとに、安全性や信頼性が求められる現場を支えてきました。
近年は、海上分野にとどまらず、陸域や公共インフラの分野にも技術の応用を広げています。社会にとって本当に必要とされる技術とは何かを問い続けながら、現場に寄り添ったものづくりに取り組んでいます。









