ここ数年、服の選び方が変わったと感じている人は多いのではないでしょうか。以前は価格や流行を基準にしていたものの、最近は「着ていて楽か」「長く使えるか」といった視点を重視する声が目立ちます。物価の上昇や働き方の変化を背景に、日常の装いにも少しずつ価値観の転換が起きています。
そうした流れを裏付ける調査として発表されたのが、「ジャケジョトレンド白書2025」です。働く女性の服装や消費行動をテーマに、過去10年間で何が変わったのかをデータから読み解いた内容で、服を単なるファッションとしてではなく、生活や気持ちと結びついた存在として捉えている点が印象的です。
調査では、安さや流行よりも、着心地や着まわし、自分らしさを重視する人が増えていることが明らかになりました。仕事の場面で着用されるジャケットについても、「きちんと見せる」ためだけでなく、気持ちを切り替える役割を担っているという声が多く寄せられています。服が心のスイッチとして機能している様子がうかがえます。
本記事では、ジャケジョトレンド白書2025にまとめられた調査結果をもとに、働く女性の服装意識の変化や、慎重になりつつある消費の背景を整理します。日々の服選びを見直すヒントとして、今の時代に起きている静かな変化を追っていきます。
服の選び方は「流行」から「納得」へ変わってきた

この10年で、服に対する考え方は大きく変わっています。
多くの人が「以前と比べて、服の選び方が変わった」と感じており、その背景には暮らし方や価値観の変化があるようです。

かつては、価格の安さや流行のデザインが服選びの基準になりがちでした。トレンドを追い、必要に応じて買い替えるというスタイルは、ごく自然なものでした。しかし現在は、その優先順位が明らかに変わっています。重視されるようになったのは、着まわしやすさや着心地、自分に合っているかどうかという視点です。

特に目立つのが、「リラックスできる着心地」を大切にする声です。仕事、家事、移動など、日常の多くの場面を同じ服で過ごすことが増えたことで、服に求められる役割も変わってきました。見た目だけでなく、長時間着ていてストレスが少ないかどうかが、選択の重要な判断材料になっています。
また、一着あたりのコスパや、流行に左右されないデザインを選ぶ人が増えている点も特徴的です。これは単なる節約志向ではなく、「自分が納得できる服を選びたい」という意識の表れと考えられます。安いから、流行っているからではなく、「これなら長く着たい」と思えるかどうか。そうした判断基準が、服選びの考え方として定着しつつあります。
服は自己表現の手段であると同時に、日々の生活を支える道具でもあります。だからこそ、目新しさよりも、自分らしさや快適さを優先する人が増えているのかもしれません。この変化は、働く女性に限らず、今の暮らし全体に共通する傾向と言えそうです。
ジャケットは「きちんと感」だけじゃない。気持ちを切り替える服

ジャケットというと、「仕事用」「フォーマル」といった少し堅いイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし、今回の調査からは、ジャケットが単なる身だしなみ以上の役割を担っていることが見えてきました。
多くの人が、仕事で「きちんと見せたい」ときや、フォーマルな場に臨む際にジャケットを必要と感じています。一方で、注目したいのはその心理的な側面です。ジャケットを着ることで「気が引き締まる」「仕事モードに切り替わる」と感じる人が多く、服が気持ちのスイッチとして機能している様子がうかがえます。
働き方が多様化し、在宅勤務や外出が混在する日常が当たり前になった今、服装の切り替えは以前よりも曖昧になっています。そんな中で、ジャケットは「オンとオフの境界線」をつくる存在として、改めて意味を持ち始めているのかもしれません。羽織るだけで姿勢が正され、意識が仕事に向く。その感覚は、多忙な日々を過ごす人にとって小さくない助けになっています。
また、人気のデザインが着まわしやすいタイプに集中している点も象徴的です。特別な一着というより、日常の中で無理なく使えることが重視されています。見た目のきちんと感と、着心地の良さ。その両立が求められていることが、ジャケットの位置づけからも伝わってきます。
服は外見を整えるためだけのものではありません。自分の気持ちを整え、行動を後押しする存在でもあります。ジャケットを巡るこうした変化は、働く女性のライフスタイルそのものが変わってきたことを静かに物語っています。
服を「たくさん買わなくなった」理由は、節約だけではない

近年、服に使うお金や購入頻度が減っていると言われることがありますが、その背景は単純な節約意識だけではなさそうです。こうした数字を追っていくと、服との付き合い方そのものが変わりつつあることが見えてきます。
1か月あたりの洋服代は「5,000円未満」という層が多く、「ほとんど服を買わない」という層も一定数存在しています。一見すると消費が冷え込んでいるようにも見えますが、その一方で「本当に欲しいものだけを選ぶ」「長く着られる服を選ぶ」といった意識が高まっている点が特徴的です。

購入頻度が減った分、一着あたりの着用期間は伸びています。流行に合わせて買い替えるのではなく、日常の中で繰り返し使えるかどうかを考えて選ぶ人が増えているのです。これは、無理に我慢しているというよりも、納得感を重視した選択に近い印象を受けます。

物価の上昇が続く中で、失敗したくないという気持ちが強くなっていることも影響しているでしょう。買ってから後悔するよりも、少し時間をかけてでも、自分に合った服を選びたい。そうした慎重な姿勢が、結果として「たくさん買わない」という行動につながっているようです。
服を減らすこと自体が目的ではなく、暮らしの中で無理なく使えるものを厳選する。その考え方は、これからの服選びの新しいスタンダードになりつつあります。量よりも質、そして価格よりも納得感。服に向き合う姿勢が、少しずつ変わってきていることが感じられます。
なぜ今、「慎重な服選び」が当たり前になったのか

牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)氏
こうした服装意識や消費行動の変化について、トレンド評論家の 牛窪恵氏は、社会全体の価値観の転換が大きく影響していると読み解いています。
これまでの服選びは、「できるだけ安く」「流行に乗り遅れないように」といった考え方が主流でした。しかし今は、価格や流行よりも「自分にとって本当に価値があるかどうか」が問われる時代に移りつつあります。いわば“価格主義”から“価値至上主義”への変化です。
背景にあるのは、働き方や暮らし方の多様化です。リモートワークと出社が混在し、仕事と生活の境界が曖昧になる中で、服にも柔軟さが求められるようになりました。着心地が良く、そのまま外出しても違和感がない服は、日常のストレスを減らす存在になっています。
また、近年よく耳にする「失敗したくない」という心理も、服選びに影響を与えています。気分で買って後悔するよりも、納得できるものを選びたい。その意識は「消費ガチャ」を避ける行動として表れ、慎重な買い物につながっています。
さらに、サステナビリティへの関心の高まりも無視できません。大量に買って使い捨てるのではなく、ひとつの服を大切に長く着る。その姿勢が、自分の暮らしや生き方を肯定する行為として受け止められるようになっています。服は単なるモノではなく、心の余裕や価値観を映し出す存在になりつつあるのです。
服の選び方は、時代の空気を映す
今回の調査から見えてきたのは、働く女性の服装が変わったという事実だけではありません。服の選び方そのものが、社会や暮らしの変化と深く結びついているという点です。
安さや流行を追いかけるよりも、自分に合い、長く使えるものを選ぶ。そうした姿勢は、無理をしない働き方や、自分らしい生活を大切にしたいという意識の表れとも言えます。服は、毎日身にまとうものだからこそ、心や行動に与える影響も小さくありません。
「たくさん持つ」よりも「納得して選ぶ」。
「新しさ」よりも「心地よさ」。
こうした価値観の広がりは、これからのライフスタイルを考える上でのヒントにもなりそうです。日々の服選びを少し見直してみることで、自分の暮らしや働き方を振り返るきっかけになるかもしれません。









