おもちゃは、ただ遊ぶための道具でしょうか?
誰かと向き合い、言葉を交わし、笑顔が生まれるきっかけになる存在でもあります。そんな「おもちゃの力」を、人と人とのつながりへと丁寧につないでいる場所が、福岡おもちゃ美術館です。
この美術館には、赤いエプロンを身に着けた「おもちゃ学芸員」と呼ばれる人たちがいます。来館者と一緒に遊びながら、おもちゃの魅力を伝え、親子や世代を超えたコミュニケーションをそっと支える役割を担っています。大切にされているのは、特別な知識よりも「人と向き合う姿勢」。おもちゃを通して、自然な会話や関係性が生まれることを何より重視しています。
この活動を支えているのが、認定NPO法人芸術と遊び創造協会です。子育て支援や地域づくり、多世代交流といった社会的なテーマに対し、「遊び」という視点から長年取り組んできました。その実践のひとつとして、福岡おもちゃ美術館では、おもちゃ学芸員を育てる養成講座も行われています。
一過性のイベントではなく、地域とともに続いていく活動。
人と人をつなぐ“遊び”の価値に、あらためて目を向けてみたくなる取り組みです。
人と人をつなぐ“遊びの案内人”という存在

福岡おもちゃ美術館で活動している「おもちゃ学芸員」は、来館者におもちゃの遊び方を一方的に教える存在ではありません。大切にされているのは、おもちゃをきっかけに人と人との関わりを生み出すことです。
館内では、赤いエプロンを身に着けたおもちゃ学芸員が、子どもや親子、時には祖父母世代とも自然に言葉を交わしながら、おもちゃの魅力を伝えています。遊び方を説明するというよりも、一緒に遊び、相手の反応に寄り添いながら、遊びが広がっていく時間を支えています。
この活動の考え方として象徴的なのが、「おもちゃの力は2割、人の力は8割」という言葉です。どれほど魅力的なおもちゃであっても、そこに人の関わりがなければ、その良さは十分に伝わりません。おもちゃ学芸員は、遊びの場にそっと入り込み、会話や笑顔が生まれるきっかけをつくる役割を担っています。
専門的な知識や資格が前提になるわけではなく、求められているのは人と向き合う姿勢です。相手の年齢や立場に合わせて声をかけ、遊びを通して自然なコミュニケーションを引き出していく。その積み重ねが、館内にあたたかな空気を生み出しています。
おもちゃ学芸員は、おもちゃを主役にするのではなく、人を中心に据えた遊びの案内人です。福岡おもちゃ美術館において欠かせない存在として、日々多くの来館者と向き合っています。
市民とともにつくるミュージアムという考え方

福岡おもちゃ美術館の特徴のひとつが、「市民立のミュージアム」という考え方です。ここでは、施設や運営側だけが場をつくるのではなく、地域の人々が主体的に関わりながら、美術館の空気や価値が育まれています。
おもちゃ学芸員として活動する人たちは、単なるサポート役ではありません。生涯学習の一環として参加する人、社会とのつながりを求めて関わる人、子育てや地域活動への関心から参加する人など、動機はさまざまです。それぞれの立場や経験を持った市民が集まり、同じ場で役割を担うことで、美術館はより多面的であたたかな場所になっています。
この活動は、子どもや親子にとっての居場所づくりにとどまらず、地域全体にとっての価値にもつながっています。世代を超えた交流が自然に生まれ、高齢者にとっては社会参加の機会となり、結果として人と人との関係性が緩やかに広がっていきます。
福岡おもちゃ美術館では、こうした市民の関わりを一時的なものではなく、継続的な活動として大切にしています。おもちゃ学芸員という存在は、その象徴ともいえる役割です。誰かのために何かをするのではなく、同じ場に立ち、同じ時間を共有する。その積み重ねが、「市民とともにつくるミュージアム」という考え方を支えています。
福岡おもちゃ美術館という実践の場
福岡おもちゃ美術館は、九州初のおもちゃ美術館として開館しました。館内には、木のぬくもりを感じられる空間が広がり、子どもたちが自由に遊びながら過ごせる工夫が随所に見られます。
特徴的なのは、「見る」ことよりも「関わる」ことを大切にしている点です。ラーメン屋台やお寿司屋さん、アイスクリーム屋さんなどのおままごと遊びをはじめ、子どもが自然と手を伸ばし、遊びに入り込める環境が整えられています。そこにおもちゃ学芸員が加わることで、遊びは一人ひとりの年齢や興味に合わせて広がっていきます。
この美術館は、完成された展示を提供する場所というよりも、日々の関わりの中で育っていく場だと言えます。来館者とおもちゃ学芸員、そして運営に関わる人たちが同じ空間を共有しながら、それぞれの立場で関係性を築いています。その積み重ねが、福岡おもちゃ美術館ならではの雰囲気を形づくっています。
また、館内で行われるさまざまな取り組みやイベントも、おもちゃ学芸員の存在によって支えられています。人が関わることで生まれる体験を重視する姿勢は、美術館全体の運営にも一貫して反映されています。福岡おもちゃ美術館は、「遊び」を通じた実践の場として、地域に根ざした活動を続けています。
遊びを通じて、人と社会をつなぐ取り組み
福岡おもちゃ美術館で行われている取り組みは、「遊び」を中心に据えながら、その先にある人と人との関係性を大切にしています。おもちゃ学芸員という存在は、来館者と空間、そして地域社会をゆるやかにつなぐ役割を担っています。
こうした活動が続いている背景には、遊びを一過性の体験として終わらせず、社会の中で生きる力や人との関わりへとつなげていこうとする考え方があります。世代や立場を超えて同じ場に集い、同じ時間を共有すること。その積み重ねが、地域に根ざしたあたたかな関係性を育んでいます。
おもちゃ学芸員の養成講座は、こうした取り組みを支える人を育てるための仕組みのひとつです。活動そのものを広げるためというよりも、価値観や姿勢を次の担い手へと引き継いでいくための機会として位置づけられています。
遊びを通して、人と人が出会い、関係が生まれ、社会へと広がっていく。福岡おもちゃ美術館と認定NPO法人芸術と遊び創造協会が続けてきた取り組みは、これからも多くの人の暮らしに静かに寄り添っていくのではないでしょうか。
認定NPO法人芸術と遊び創造協会 概要
認定NPO法人芸術と遊び創造協会は、優良なおもちゃをコミュニケーションのツールとして活用し、多世代での交流を促す活動を行っている団体です。
「遊び」を通じて人と人をつなぐことを大切にし、教育や子育て、地域づくりの分野でさまざまな取り組みを展開しています。
新宿の旧校舎を活用した「東京おもちゃ美術館」の運営をはじめ、全国各地での子育て支援活動や、病児の遊びを支える取り組みなどを行っています。









